今回の展示をするにあたって、考えていた事。
この旅の写真たちを、見てくれる人達とどうやって共有したらいいのか、どうやったら楽しんでくれるのかを、ずっと考えていた。
その過程で生まれたひとつの空想の会話をここに書こうと思う。
お客さんを君、山口明宏は僕として書いている。
—
君は、この風景を知らない。
見た事もないし、行った事もない。
君は知らない景色を見てもきっとつまらなそうな顔をするんだ。
へー、そうなのって、iPhoneをいじる。
それなら僕は、君の知ってる景色に似ているものを並べよう。
どこかでみたことがあるような世界のカケラを飾るのだ。
例えば、君は江ノ島を知っているかな?
モンサンミッシェルだっけ、ネットでみたことあるのかなぁ?
あの海の青さは、テレビで見た事あるかもね。
すべての写真に「どこかで見た事ある」を込めていくのだ。
懐かしさ、みたいなものが見えるかな。
それを見て君はきっとこう言う。
あぁ、知ってるかも、見たことあるかもって。
そしたら僕はこう返す。
似てるでしょ? でも違うんだなぁ~、と。
そしたら、君は思うかもしれない。
そうなんだ、なんか少し懐かしく感じるかも。
似た景色を知ってるような気がするからかなぁ?
君ははじめよりは興味を持って写真を眺める。
僕はそれをみて嬉しい気持ちになる。
僕は、君が興味を持つものが作れて嬉しくなった。
―
こんな感じです。
あまりに空想的すぎますか?
sirimiriにあったのは、どこかで見た事ある誰もが持っている旅のイメージ。
たぶん人は、多かれ少なかれ旅をした事がある。
その旅っていうのは、距離はあまり関係なく自転車で隣町に行くでも、飛行機で遠くに行くでも同じだ。
どちらにしても、その時に見た景色は心の深いところで抽象化され、記憶の片隅に横たわっているのだ。
そうだとしたら、僕らはその深い記憶の片隅という部分で繋がっていて、僕はその部分がある「深さ」まで潜っていく。その中で見つけたものならば、僕の旅と貴方の旅は繋がるかもしれない、と思っていた。
それがこの写真たちで、あの日あの場所に飾られました。
懐かしく感じましたか?
見た事あるなぁと思いましたか?
単純に綺麗と思いましたか?
まぁ、でも実際のところは、なんでもいいです。
この写真を選ぶ時の気持ちはいつだって、空想の誰かを見ていて楽しかったから。
それだけで満足です。
山口明宏