「ほとんどの人は、旅行は消耗品だよ」
何気ない会話の中で聞いたこの言葉に、一瞬、思考が止まった。驚きと、納得と、なんだか腑に落ちない部分と。
じゃあ、私にとっての旅ってなんだ。私はずっとずっと旅してたいわけじゃなくて…
「私は栄養素だと思ってた。人生に必要な」
そう、自分の中では作り出せないから、摂取する。旅に出て、自分に取り込む。蓄積される栄養分。その先の日々に影響を与えたり、なかったりだけど、私の芯や基礎になっている気がする。使い、すり減っていく旅もあるのか…。
ビルバオで泊まった宿のオーナーは50代後半の女性で、明るく朗らかな人だった。シャワーを浴びるつもりで彼女がいたキッチンを通りがかり、話が盛り上がって1時間半は喋ったと思う。
バスク以外の街に行かないの? 素晴らしい場所がたくさんあるのに? っていろんな人に言われるんだ、と話したら彼女はこう言った。
「あちこち行かずに同じ店に通い同じ人に会って、知っていくのも素敵じゃない? あなたはTourist(観光客)じゃなくて、Traveller(旅人)なんでしょう?」
旅って…と考える時はいつも、彼女の顔が浮かぶようになった。
Photo : September. 2017